あのブランドが、帰ってきた。

INTRODUCTION

価値観が変わると、ブランドは崩れる

アバクロというブランドの歩みを振り返ると、時代の風向きが変わった瞬間に、 どれほど強固に見えた体制でもあっけなく崩れることを痛感します。 かつてアバクロは、「イケている白人のための服」という狭い美学を信奉し、 排他性を資本として繁栄しました。

店舗入り口では上半身裸の白人モデルが客を“選別”し、店内はクラブのような 照明と香りで“選民の館”を演出していた。若者たちはその幻想に酔い、ブランドは 隆盛を極めました。

FALL

排除の価値観は、SNS時代に晒されて崩壊する

しかしSNSが普及し、企業倫理が可視化されるようになると、アバクロの抱えていた “排除の価値観”は瞬く間に剥き出しになりました。映画やメディアでも、 アバクロは「嫌なやつの象徴」として描かれ始めます。神話が嘲笑へと転じるまで、 そう時間はかかりませんでした。

崩壊の根は、経営トップの個人的価値観にありました。CEOのマイク・ジェフリーズは 「太った人は着なくていい」とまで公言し、人種と容姿で採用を選別する体制を 続けていた。時代がこの価値観に背を向けたとき、ブランドは音を立てて崩れました。 歴史とはいつも、価値観の転換が旧体制を瓦解させます。アバクロも例外では ありませんでした。

REBIRTH

2015年以降の再生──価値観の再定義から始まった

ところが2015年以降、アバクロは驚くべき再生を遂げます。やったことは、 単なるロゴ変更やセールの濫用ではありません。企業の「価値観」そのものの 再定義でした。

排他から包摂へ。この転換を、広告、採用、店舗体験、SNS、EC、社内文化のすべてに 徹底して反映させたのです。

広告は一掃され、多様な体型・人種・年齢のモデルを起用し、レタッチを廃止。 SNSはマイクロインフルエンサーとUGCを中心に、押し付けるのではなく“共に語る” 関係性へ。アプリでは「自分に似た体型のレビュー」を可視化し、不安を減らした。

店舗は暗闇とムスクの要塞から、誰でも入れる明るい空間へ。スタッフの役割も “モデル”から“アンバサダー”へ変わり、接客も変わった。DE&Iを軸に据えた経営改革により、 ブランドは再び社会的信頼を獲得していきます。

VALUES

価値観を刷新できる者だけが、生き残る

どこかで聞いたような話です。価値観を武器に旧体制を倒した者が、その価値観を 裏切れば必ず滅びる。逆に、価値観を刷新する勇気を持つ者は、新しい時代の主役に なります。アバクロの再生は、その典型です。

大事なのは、アバクロが「服を売るブランド」から「顧客と共に価値観を育てる ブランド」へと生まれ変わったこと。時代に合わない思想は、どれほど強そうでも 風前の灯火です。価値観を問い直す者には、再び光が差します。

CONCLUSION

ブランドは“共感”という名の信用で立つ

アバクロの復活劇が教えてくれるのは、ブランドとは結局“共感”という名の信用で 成立しており、その信用を失った瞬間に沈むという、あまりにも明快な答えです。

価値観を問い直し、社会と共にアップデートし続けるブランドだけが、再び歩き始める ことができます。