4年で全国100店舗にした美容室の戦略を徹底分析。中小企業が選ばれるブランドになる方法とは?

――ある美容室ブランドが業界に旋風を巻き起こしました。その成功の裏には、徹底的に顧客志向で設計されたマーケティング戦略があります。本記事では、創業初期フェーズから全国展開期、そして関連事業へと拡がる独自のマーケティング手法の全貌を、具体事例と戦略意図のニュアンスを交えて、できる限り詳細に分析します。
第1章:立ち上げ初期のマーケティング手法
差別化の鍵は「やらないこと」を明確にするコンセプト設計
このブランドでは「髪質改善に特化する」ことを最重要方針として打ち出しました。通常の美容室で提供されるメニューの多く(ヘアセット、着付け、子供カットなど)を明確に「やらない」と宣言し、「髪をきれいにすること」だけに集中。その結果、顧客は「自分の悩みに真正面から向き合ってくれるサロン」としての信頼感を持ち、指名利用につながりました。
開業前から仕込んだWeb集客設計とSEO戦略
多くの美容師が「開店してからブログを始める」のに対し、本ブランドは開業前からブログとホームページを立ち上げ、「髪が広がる」「美容室を変えても効果がない」といった悩みに対して検索で自然流入するようにコンテンツを設計。これは単なる技術説明ではなく、「なぜ他店では効果がなかったのか」「なぜこのブランドなら解決できるのか」に踏み込むコンテンツで、SEOと共感の両面を獲得するものでした。
リスティング広告とSNS広告の併用で少額かつ高効率集客
店舗開業と同時に、検索連動型(リスティング)広告やFacebook広告を月5万円前後(フランチャイズ店舗からは月額徴収)の予算で運用。どのIPアドレスからアクセスしているかまで細かくトラッキングし、地域ごとの反応を分析。ホットペッパーなどの高額広告媒体に依存せず、少人数でも回る集客スキームを実現しました。
客単価設定と予約導線の設計
顧客単価は15,000円を基準とし、カットやカラー単品ではなく髪質改善パッケージに集約。ホームページで予約メニューを限定し、来店時に追加メニュー提案をしないことで「押し売りのない安心感」も提供。来店前の期待と来店後の体験をブレさせない設計が、リピート率90%という驚異的な数字を生み出しました。
一応、カットもホームページのメニューには載せていますが、単価が7,500円と相当高く設定されています。地方だとカットは4,500円ぐらいで高いと言われているので、カットだけで7,500円までいく美容室って多くはないですね。
一方で、カット・カラーリング・トリートメントをセットにすると16,200円なので、これは普通の平均料金ぐらいなんですよ。そして、カットがなければ2,000円オフで、次回予約もいれるとさらに1,000円オフで13,200円です。そうすると、この個室空間で入れ替わりがなく、完全予約制で絶対に時間を待たされないので、逆に安いのです。
メルマガ・LINE・アフター体験設計によるファン化
「その場で満足」ではなく、「次回来店までの満足」が設計された体験価値。ホームケア指導やLINEでのフォロー、髪質改善の維持スケジュールの共有により、「この店なら長期的に髪がきれいになる」という信頼形成につながっています。
第2章:全国展開期のマーケティング手法
フランチャイズモデルにおける本部集客代行体制
店舗数が増えていくフェーズにおいても、すべての店舗の集客を6名のリモートマーケティングチームが一括対応。加盟オーナーはマーケティングに不慣れな場合が多く、「自分で集客しなくて良い」ことがフランチャイズ加入の強いインセンティブになりました。実際、どの店舗も3ヶ月以内に黒字化する再現性の高さが証明され、加盟希望が殺到。
出店エリアのデータドリブン管理
広告経由の問い合わせ数をもとにエリアごとの需要を数値化。「この地域にはあと1店舗出せる」といった判断をすべてデータで可視化し、出店スピードと過密回避の両立を実現。
書籍・動画・SNSを組み合わせた影響力マーケティング
創業者が出版した書籍はベストセラーとなり、全国の美容業界関係者や経営者志望者が注目。YouTubeでは現場のリアルやマネジメント論を公開し、求職者・フランチャイズ志望者の信頼を得ました。SNSでは経営者層と日常的な接点を持つことに成功し、業界を超えたブランド認知に寄与。
採用マーケティングにおける“共感”の可視化
求人ページでは「好きな時間に出退勤OK」「残業・アシスタント・ミーティングなし」「客数制限ありで1人1人に集中できる」といった“美容師の理想像”を明確に提示。自社採用サイト経由で月90件超の応募を実現し、離職率ゼロを記録するなど、他社との圧倒的な差別化に成功。
第3章:関連事業フェーズ
自社プロダクト開発とD2C展開
店舗で培った髪質改善技術と顧客ニーズをもとに、専用シャンプー・トリートメントを独自開発。実店舗だけでなくEC・クラファン・LINE・SNSを活用して顧客に直接届けるモデルへ。レビュー施策や顧客投稿のUGC戦略も取り入れ、ブランド体験を「自宅」まで拡張。
マーケティング支援事業への展開
本部で積み上げたWeb集客・サイト制作・運用ノウハウを外販し、美容室以外(ネイル・整体・小売業など)にも支援展開。単なる制作ではなく、「集客まで丸ごと引き受ける」ことを価値にし、再現性あるマーケティングモデルとして法人向けに提供。
無料コミュニティとファネルの構築
無料Facebookコミュニティを起点に、有料講座・起業家塾・フランチャイズ募集へと続くファネルを構築。全体像として、広告に頼らず、情報発信・無料価値提供→信頼形成→顧客化の構造をマーケティングの主軸とする姿勢が徹底されています。
結論:
マーケティングとは設計そのものである このブランドのマーケティングは、「見せ方」や「広告手法」ではなく、「誰のどんな悩みに、どんな約束で、どんな仕組みで応えるか」という設計そのもの。事業戦略とマーケティング戦略が一致し、再現性・収益性・持続性が両立しています。
中小企業やスモールビジネスが学べることは多く、顧客体験と収益を両立させたい事業者にとって非常に実用的なヒントに満ちています。