なぜ今、「ブランディング」を正しく理解する必要があるのか?

―感覚論から脱却し、事業成果につなげる戦略的アプローチ―

「ブランディング」という言葉は、マーケティングに関する会話の中で頻繁に登場します。
しかし、その実態は意外とつかみづらく、言葉だけが一人歩きしているのも事実です。

広告代理店やコンサルティング会社の提案資料には、以下のようなキャッチコピーが踊ります。

「ブランド独自の世界観をつくりましょう」
「価格競争から脱し、ブランド価値で選ばれる企業へ」
「ブランディングで採用力を強化しましょう」
「1000円のエコバッグと100万円のバッグの違いは“ブランド”です」

これらの文言が示す通り、ブランディングには多くの期待が寄せられています。
一方で、こうした“期待”が過剰になると、「結局、何のためにやるのか」「効果はあったのか」という本質的な問いに答えられないまま、無駄な投資や空中戦に終わってしまう危険性もあります。


ブランディングとは何か?——定義とその本質

「ブランディング」とは何か? この問いに対し、いまだに統一された定義は存在しません。マーケティングという言葉と同じく、使う人や文脈によって解釈が大きく異なるためです。

ブランディングの定義

顧客がプロダクトや企業に見いだした“価値”(=便益や独自性)を、ブランド名・色・形・デザイン・ロゴ・音・言葉などを通じて記憶に残し、再認識や想起を促すことで、購入行動や継続利用へと導く活動。

この定義のポイントは、「ブランディング自体が便益ではない」ということです。
消費者が商品やサービスを購入する主な動機は、機能的な便益または他にはない独自性であり、ブランドはそれを想起しやすくするための“記号化の仕組み”にすぎません。


ブランディングは「目的の明確化」から始まる

ブランディングの本質は、“投資”です。
つまり「何のために、誰に、どのような成果を期待して」行うのか、を明確にしなければ意味がありません。

たとえば、ブランディングを通じて目指す成果は以下のいずれかに集約されます:

  • 顧客数を増やす(新規獲得)
  • 単価を上げる(高価格帯で売る)
  • 購入頻度を上げる(リピート促進)

この3つのどれかを目指すことなく、なんとなく「世界観をつくる」「好感度を高める」という抽象的な目標だけでは、投資対効果が不明瞭なまま終わってしまうのです。


ブランディングの3つの目的

ブランディング活動は、どれも以下のいずれかに分類できます。これらを明確にすることで、具体的なKPI設定や効果測定が可能になります。

1. 記憶と識別の支援

顧客が「このブランドの商品だ」とすぐに識別できるようにし、必要なときに思い出してもらうための記憶装置をつくること。

2. 情緒的・心理的価値の付加

単なる機能では差別化できない市場で、「好き」「共感できる」「憧れる」といった情緒的価値を付加し、ブランド選好を形成する。

3. プロダクト以外の価値づけ

企業そのもの、従業員、IR(投資家向け広報)、採用など、非プロダクト領域におけるブランドイメージの構築。


よくある誤解:ブランディング≠広告・デザインだけではない

「ロゴを作る」「キャッチコピーを考える」「CMを出す」といった活動は、ブランディングの“手段”ではありますが、“目的”ではありません。

本質的なブランディングとは、「誰に、何を、どう伝え、どう記憶に残し、どう行動変容を促すか」の戦略であり、戦術的なクリエイティブ活動はその一部に過ぎません。