記憶され、思い出され、選ばれる——「ブランディング」の第1目的を正しく設計する
「ブランディングって、なんとなく大事そうだけど、実際どう使えばいいの?」そう感じる方にこそ、まず押さえてほしいのが「目的の明確化」です。
誰に対して(WHO)、どんな結果を期待してブランディングを行うのか。これが定まらなければ、時間も資金も人材も、成果に結びつかないまま消費されていきます。
■ ブランディングの3つの目的とは?
本シリーズでは、ブランディングの目的を以下の3つに分類します。
- プロダクトを顧客に記憶してもらい、必要なときに思い出してもらう
- 記憶に加えて、情緒的・心理的価値(付加価値)を与える
- プロダクト以外に向けた、企業・従業員・IRへのブランディング
このうち、最も基礎的かつすべての起点となるのが「1.記憶と想起の設計」です。
ここではこの第1目的にフォーカスし、ビジネス成果へとつながるブランディングの本質を紐解きます。
■ なぜ「記憶と想起」が最重要なのか?
いくら優れた商品・サービスであっても、顧客の頭の中にその存在が“残っていなければ”、そもそも選ばれません。選択肢に入らないのです。
ブランディングの第一歩は、「顧客に“忘れられない”ようにすること」。
そのためには、以下の2点が欠かせません:
- 覚えやすい記号(名称・色・ロゴ・言葉・音など)
- 便益や独自性と強く結びついた記憶
つまり、ただ「知っている」では不十分。顧客が何かを必要とした瞬間に、「あれだ」と意味を持って思い出されることが大事なのです。
■ 実例で理解する:洗濯洗剤の「思い出させ方」
たとえば、洗濯洗剤を買おうと思ったとき、多くの人は以下のような記憶を頼りに商品を選びます。
「この前買ったやつ、除菌力が良かった気がする。パッケージは青と白、名前は……たしか“除菌プラスA”だったかな?」
このように、「便益(除菌力)」と「記号(色・名前)」が記憶の中で結びついていれば、店頭での再購入や、検索を通じたEC購入につながります。これはまさに、“記憶→想起→購入”の流れがブランディングによって設計されている例です。
■ ブランディングは「選択の失敗リスク」を下げる
記憶と想起の設計ができているブランドは、顧客にとって選択の安心材料となります。
これは以下の2点において大きな価値を持ちます:
a. 選択の簡素化と失敗リスクの低減
人は商品選択のたびに情報を調べるのではなく、「失敗しない記憶の選択肢」に頼ります。
「前に使って良かった」「評判が良い」という記憶が行動のトリガーになるのです。
b. 類似品・模倣品からの区別(=法的・心理的な保護)
ブランドが識別されるようになると、顧客は似て非なる商品を“選ばなくなる”。
これは法的な保護だけでなく、消費行動上の強力な防衛手段にもなります。
■ 記憶が「便益×独自性」と結びついているか?
ここで注意すべきは、記憶の中身です。ただ「聞いたことがある」だけでは選ばれません。
選ばれる記憶とは、「この商品にはこういう良さがある」という価値に直結する記憶です。
- ✅ 「味が好みに合うコーヒーだった」
- ✅ 「他社よりも効果が実感できた洗剤だった」
- ✅ 「シンプルだけど、印象に残るデザインだった」
このように、顧客にとって“意味のある”記憶を残すことが、ブランディングの成功条件です。
■ ブランディングが既存顧客の継続にも効く理由
既に購入経験のある顧客にとっても、広告やSNS投稿などのタッチポイントは重要です。
なぜなら、
- 「自分の選択は正しかった」と再確認させる(=ロイヤルティの強化)
- 「次も買おう」という意図を自然に促す(=継続率UP)
といった記憶のリマインド機能が働くからです。結果として離反の抑止にもつながります。
■ 測定可能なKPI指標
この目的に沿ったブランディングでは、次のようなKPIで効果測定が可能です:
分類 | 指標例 |
---|---|
認知段階 | 認知率・想起率・ブランド接触率 |
購買行動 | 購入率・購入頻度・継続購入率 |
ロイヤル層 | 離反率・NPS(推奨意向)・NPI(次回購入意向) |
■ ケーススタディ:洗濯洗剤Aの戦略
ブランドAは、「高い除菌力」を便益かつ独自性とし、ネーミングに「除菌」を2度強調。
また、競合が採用していないパッケージデザインを採用することで、「視覚的記号性」も確立。
広告訴求でこの特徴を徹底的に想起させ、初回購入とリピート率を向上させた事例です。
■ まとめ:記憶されなければ、選ばれない
ブランドが競合より「優れている」かどうか以前に、
顧客の記憶に存在しているかどうかが、選ばれるか否かの第一関門です。
ブランディングの第一目的は、「価値ある記憶を戦略的に設計すること」。
思い出されるブランドは、選ばれるブランドです。