企業の未来をつくるブランディング——第3の目的「モチベーションとリクルーティングへの貢献」
これまで、ブランディングの2つの目的、「記憶と想起(目的①)」と「情緒的・心理的価値の創出(目的②)」について解説してきました。
今回は、ブランディングの第3の目的である「プロダクト以外へのブランディング」について掘り下げていきます。
これは商品・サービスの販売を目的としたブランディングではなく、企業の存在意義を社内外に浸透させ、共感を生み出すための活動です。
■ ブランディングの3つの目的(再掲)
- 記憶と想起:機能的な価値を覚えてもらい、思い出されること
- 情緒的価値:記憶の上に感情的な満足を積み上げること
- 存在意義:企業の理念や価値観に共感を集め、行動を促すこと
■ 目的③は「プロダクト以外」の価値創造
この目的は「インナーブランディング」「コーポレートブランディング」「IRブランディング」と呼ばれることもあります。
顧客に直接売ることを目的とせず、従業員、株主、学生、取引先、メディアといったステークホルダーに対して、以下の3点を通じて、組織全体の持続的な価値を創出するのが役割です。
- 共感を得る
- 信頼を築く
- モチベーションを高める
■ 企業の“想い”が行動を動かす:WHOとWHATの整理
要素 | 内容 |
---|---|
WHO(誰に) | 従業員、潜在的な従業員、投資家、取引先、メディア、学生 |
WHAT(何を) | ビジョン・ミッション・パーパスなど、企業や事業の存在意義の訴求 |
■ なぜ存在意義が必要なのか?
● 組織のモチベーションを強化するため
企業の存在意義が明確で、働く理由が腹落ちしている組織ほど、社員のエンゲージメントは高くなります。
共感した価値観のもとで働くことは、離職率の低下や業務品質の向上にも直結します。
● 優秀な人材を惹きつけるため
理念やカルチャーに魅力を感じることで、「この会社で働きたい」「この会社を応援したい」と感じる人材が自然と集まります。
これはリクルーティングコストの削減にもつながります。
■ 言葉だけじゃない。“伝わる”表現がカギ
存在意義は、ビジョン・ミッション・パーパスといった言葉で定義されるだけでは不十分です。
感覚的・直感的に伝わる表現として、以下のようなツールが重要です。
- ブランドムービー(例:AppleのCM「1984」)
- コーポレートサイトやビジュアルデザイン
- 社内イベント、社員インタビュー、アイコン・スローガン
- 採用パンフレット・SNS発信
言葉 × デザイン × 体験の3点セットで、企業の想いをステークホルダーの記憶と感情に刻みます。
■ ケーススタディ:AppleのCM「1984」
Appleが1984年に米スーパーボウルで放映した伝説的CM「1984」は、単なる商品の宣伝ではありませんでした。
権威的なシステムを打ち破る“反骨”として、Appleの存在意義を表現した象徴的なメッセージ。
このCMは初代Macintoshの販売前に放送され、直接の売上貢献は不明瞭ですが、
- Appleの企業姿勢
- 社内外の共感
- 優秀な人材・パートナーとの関係構築
といった中長期的な価値創出につながったと評価されています。
■ 測定可能なKPI指標
インナーブランディングやコーポレートブランディングも、成果を定量的に測ることが可能です。
カテゴリ | 指標例 |
---|---|
ブランド認知 | 理念認知率・ブランド想起率 |
社内モチベーション | 従業員満足度(ES)・離職率・業務エンゲージメント |
採用 | 就職意向率・採用応募数・内定辞退率・採用ランキング |
投資家・株主 | 支援意向・株主継続意向・IR資料閲覧率・説明会参加率 |
■ 総括:3つの目的を整理する
目的 | WHO(誰に) | WHAT(何を) | 目的の性質 | KPI例 |
---|---|---|---|---|
① 記憶と想起 | 潜在顧客・既存顧客 | 機能的便益と独自性 | 売上・利益への直接貢献 | 認知率・想起率・購入頻度 |
② 情緒的価値 | 潜在顧客・既存顧客 | 情緒的・心理的な便益と独自性 | 売上・利益への直接貢献 | ブランド好感度・単価 |
③ 存在意義 | 従業員・学生・投資家・取引先・メディア | ビジョン・ミッション・パーパスなどの存在意義 | 売上・利益への間接貢献 | 離職率・ES・採用応募率 |
■ まとめ:企業の内と外を動かすブランディング
ブランディングは、商品を売るためだけのものではありません。
企業の存在そのものを価値として伝え、共感を生み、人を巻き込むための“戦略”です。
- 売上のためにプロダクトを記憶させ
- 単価を上げるために感情を揺さぶり
- 組織の未来のために理念を共感させる
この3つの目的のどれを主軸にするかを明確にし、戦略設計をすることで、ブランディングは必ず成果を生む投資になります。