テレビCMの“認知率の罠”──CM認知≠商品認知、見落とされがちな重大ギャップ

「テレビCMを打てば商品は知られる」――本当にそうでしょうか?

短期間で広くリーチ可能なテレビCM。
スタートアップから大企業まで、多くの企業が今もなお「認知獲得」を目的にテレビCMを選択肢に入れています。

たしかに、プロダクト認知と購入意向、そして売上には一定の相関関係があるというデータも存在します。
しかし、ここには多くのマーケターが陥る、ある重大な誤解が潜んでいます。


■ 認知率=CM認知率ではない

2024年の現在でも、テレビCMは優れたリーチメディアです。
だからこそ、「CM投入量を増やせば、認知度も上がり、売上につながる」という考えは、いまだに多くの場面で語られます。

このとき、テレビCMの計画では必ず**「認知曲線(GRP量とCM認知率の相関グラフ)」**が登場します。
例えば「CM認知率50%を目指すなら○○GRPが必要」といった具合です。

しかし、ここに落とし穴があります。

CM認知率はあくまで「CMを知っている/見たことがある人の割合」であり、
商品やブランドそのものの認知率(プロダクト認知率)とはイコールではない。


■ 戦略にズレを生む「認知の混同」

コンサルティングの現場でもよく見られるのが、CM認知率をプロダクト認知率と誤認しているケースです。

CM認知率とプロダクト購入意向の間には、ほとんど相関は認められない、もしくは相関があっても限定的です。
一方で、プロダクト認知率と購入意向の相関は非常に高い傾向にあります。

つまり、テレビCMで「CM認知率」を上げても、それがそのまま購買行動に直結するわけではないのです。

CMの記憶 → プロダクト認知 → 検討・比較 → 購入意向 というプロセスの中で、
「CM認知→プロダクト認知」のステップを飛ばして、いきなり購買意向に結びつけることは難しいという現実があります。


■ 経営判断に潜むリスク

この誤解は、ときに経営戦略上の致命的なズレを生みます。

例えば、CM認知率を「プロダクト認知率」と誤解したまま

  • 「CMの認知率は50%なのに売上が伸びない」
  • 「だからさらにCMを増やそう」

という判断が行われるケースです。

この場合、実際にはプロダクト認知自体が上がっておらず、結果的に投資が空回りする可能性が高くなります。

CM認知率は「CMの到達度」であって「商品認知」でも「ブランド浸透」でもない。

この当たり前の事実が、意外にも組織内で共有されていないケースは少なくありません。


【まとめ】テレビCM施策に不可欠な“認知率の正しい理解”

テレビCMは、今もなお強力な武器です。
ただし、それは**「CMを知っている人を増やす=商品が認知された」という短絡的な図式ではない**ことを理解した上で、戦略を組み立てるべきです。

  • CM認知 → プロダクト認知 → 検討・購買意向 → 購買
  • 各段階における「認知の壁」と「促進施策」を明確化する

これが、テレビCMを売上に直結させるための正しい設計と言えるでしょう。

認知率の数字に惑わされず、「何の認知なのか」を問い続ける。
その一歩が、無駄打ちしないマーケティングを生むのです。