買う理由は“脳”が知っている──マーティン・リンドストロームが解き明かした無意識の購買心理
「私たちはなぜ、それを“買いたく”なるのか?」
その問いに、科学で答えようとしたマーケターがいます。マーティン・リンドストローム──デンマーク出身のブランディング専門家であり、『買い物する脳(Buyology)』の著者。彼は、従来のアンケートやインタビューでは届かなかった、“無意識の購買動機”を科学の力で可視化した人物です。
ニューロマーケティングとは何か?
リンドストロームの代表的な研究手法であるニューロマーケティングは、
fMRI(脳の血流変化を観察する装置)やEEG(脳波測定)を使い、広告やブランドに対する脳の反応を“直に”測定するアプローチです。
これにより、「好き/嫌い」「信頼/疑念」など、言語化されない消費者の本音を掘り起こすことが可能になりました。
リンドストロームが明かした5つの「買いたくなる」メカニズム
発見 | 内容 |
---|---|
① サブリミナル広告は効く | 意識されないメッセージが、無意識に影響し購買意欲を刺激する。 |
② 五感がブランドを作る | 香り・音・触感などが記憶と結びつき、ブランドへの愛着を強める。 |
③ “クールさ”は本能を刺激する | ブランドが性的魅力や社会的地位と結びつくと、購買動機が加速する。 |
④ ブランドは“現代の宗教” | ロゴ、儀式、ストーリーは信仰に似た作用を持ち、共感と忠誠を生む。 |
⑤ ソマティック・マーカー効果 | 過去のポジティブ体験が、次回以降の購買を左右する。 |
「五感マーケティング」の再評価
リンドストロームの研究は、視覚中心の広告から“五感のデザイン”へとマーケティングを進化させました。たとえば:
- 音楽でブランドを思い出させる(Intelの起動音)
- 香りで空間とブランドを結びつける(アバクロの店内フレグランス)
- 手触りや質感による印象強化(パッケージの紙質や厚み)
ブランドはもはや「商品を売るもの」ではなく、「感情を設計するもの」へと変わってきているのです。
ブランドは“記憶と感情”で選ばれる
従来のマーケティングは、「ターゲットは誰か?」「何がUSPか?」に重点を置いていました。
しかし、リンドストロームは問いをこう変えました:
「そのブランドを見たとき、脳は何を感じているか?」
ここから生まれたのが、“ブランド体験の設計”という新しいアプローチ。
商品そのものではなく、ブランドとの接触点すべて(広告・包装・接客・音・匂い・記憶)を感情的に連動させることで、強いブランドを構築するのです。
リンドストロームが与えた現代マーケへの影響
- 消費者インサイトの深化: 言葉にならない“なぜ買うのか”を科学的に解明。
- ブランド体験の再定義: 単なる機能価値ではなく、「記憶に残る感情価値」を提供。
- 広告設計の再構築: 潜在意識と五感に訴える表現が主流に。
- ニューロマーケティングの普及: 実験とデータに基づくブランド戦略が浸透。
まとめ
マーティン・リンドストロームの功績は、マーケティングの主戦場を**“市場”から“脳”へ**と移しました。
彼の問いかけは、今日もすべてのブランドに突き刺さっています。
「あなたのブランドは、“脳”に残っていますか?」