売れない理由は“1人の顧客”を見ていないから──起業家の盲点とは?

顧客起点マーケティングとは、「1人の顧客=N1」に真剣に向き合うことを出発点に、より多くの顧客へと広げていくマーケティングアプローチです。ただし、これは「1人の意見だけを信じる」ことを意味しているわけではありません。

N1起点とは、実在する顧客1人のリアルな心理と行動を深く理解することから始まります。そのうえで、マス(多数の顧客)を対象とした調査やデータも掛け合わせ、事業としての持続性とスケールを見極めていく必要があります。


N1から始める戦略と戦術の構築

一般的なマーケティングでは、大規模市場をセグメントに分けて戦略を立てますが、スタートアップや中小企業では、1人の声をヒントにビジネスをつくることも少なくありません。

このとき重要なのは、その1人の顧客がどのような人で、何を求めているのかを明確にすることです。そして、「同じようなニーズを持つ人が他にどれくらいいるのか」を確認することで、市場性や成長性を検証していきます。

つまり、「N=1」の視点と「N=1000」の視点を両立させながら、マーケティング戦略と戦術を構築していくのが顧客起点マーケティングの本質です。


N1起点 vs マス起点──どちらかではなく、掛け合わせる

マーケティングには2つの思考スタイルがあります。

① 演繹的アプローチ(マス起点)

統計や市場調査など、全体を俯瞰して論理的に推論していく手法です。これは「多数派に向けた普遍性の高い戦略」が得意ですが、個々の顧客の深い理解には弱い傾向があります。

② 帰納的アプローチ(N1起点)

1人の顧客のリアルな行動や声から出発し、そこにある本質的な価値やニーズを掘り下げていく手法です。顧客の解像度は非常に高くなりますが、そのままでは規模が限定されてしまう課題もあります。顧客起点マーケティングは、これら2つを補完的に組み合わせるアプローチです。N1の解像度とマスの規模感、両者を掛け合わせて、投資の最適配分や提供価値の精度を高めていきます。


「誰に何を届けるか」を見極める

このアプローチでは、「誰に(WHO)」と「何を(WHAT)」を提供すべきか、という戦略を立てることが核心です。

  • N1起点で顧客理解を深める
  • マス調査で市場規模と可能性を見極める
  • 両者の接点に、最も投資効率の高い戦略を見出す

これが、顧客起点マーケティングにおける理想的な思考と実行のフローです。

※ 参考文献:たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング