|マーケティングの解説書|

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【この記事の内容】
マーケティングとは何か?
中心顧客を定義する
なぜサラダマックは失敗したのか?
人間の欲求について
インサイト考察の手順
自社ブランドの価値を定義する

~マーケティングとは何か?~

経営学者のピーター・ドラッカーは、「マーケティングの理想は、販売(営業)を不要にするものである」と言っています。

顧客に「買ってください」と売り込まなくても、商品が「売れる仕組み」をつくることがマーケティングであるということです。

つまり「商品を売る」のは営業の仕事であり、「商品を売れるようにする」のがマーケティングの仕事であるということです。

マーケティング戦略立案の手順

1.中心顧客を定義する:
自社ブランドの価値を届けたい最もコアな顧客層のことです。

2.インサイト(中心顧客の本能的欲求)を考察する:
インサイトは、本人も意識していない、無意識下の行動や本音のことです。

3.自社ブランドの価値を定義する:
自社ブランドが顧客に与える価値のことであり、自社ブランドが選ばれる理由にあたります。

4.手段を選択する:
自社ブランドの価値を中心顧客に届ける仕掛けや仕組みのことです。

中心顧客を定義する

中心顧客を定義しなければならない理由は、中心顧客が明確でないとインサイトを考察することができないからです。

マーケティングにおいて何よりも重要なのは、顧客のニーズやインサイトを正しく理解し、適切な手段を用いてメッセージを届けることにあります。

そのためには、中心顧客がどんな人で、何を考え、どんな行動をするかを把握しておく必要があるのです。

中心顧客の定義は、世の中の多くの人が潜在的に持っている意識を、一番顕在化している人を見つける作業です。

それは、企業の商品やサービスにとって一番選ばれたい人と言い換えてもよいです。

中心顧客の定義は以下の項目で整理しておくとよいでしょう。

中心顧客の定義のポイント

●性別
●年齢
●家族構成
●居住地
●趣味
●生活パターン(平日)
●生活パターン(休日)
●働いていれば業種・事業内容
●企業規模(売上・従業員数など)
●役職

このような顧客に使ってほしい、使っているだろうという思い込みや、先入観で決めてしまうのは、実際のユーザーと乖離してしまうことがあるため、オススメできません

仮説として、顧客像を思案するのは良いですが、中心顧客を定義するうえでは、しっかり現状の利用顧客とのズレが生じていないかデータを集めて判断をおこなうようにしましょう。

中心顧客を定義した後も、実際に顧客インタビューや集めたデータとのズレがないか、都度チューニングをおこなうべきです。

中心顧客について考えていると、複数の要素を入れてしまいたくなることが多々あります。そういった場合には、別の中心顧客を追加で設定してみてください。

なぜサラダマックは失敗したのか?

人はどのような理由で買うモノを選択しているのでしょうか?多くの人は、品質や効能よく吟味して、より良いモノを選択していると思うはずです。

しかし、本当にそうでしょうか?

たとえばあなたが、お気に入りのお茶(130円)を買いに行ったとします。まったく知らないブランドのお茶が、100円で売られていたとしたらどうしますか…?あなたは、迷わずお気に入りのお茶を買いますか?

では、お気に入りのお茶がそのコンビニになかった場合はどうでしょう?わざわざ別のコンビニまで行ってそのお茶を買いますか?

「わざわざ別のコンビニまで行くほどでもないな」、「やっぱり100円のお茶でもいいかな」と、多くの人は思うのではないでしょうか?

つまり、日常生活でひとつひとつの商品の中身をいちいち吟味して買ってはいないのです。

「このお茶も安いけど、やっぱりいつものにしよう」「いつものがいいけど、やっぱり安いのでいいかな」そんな、無意識の本能的欲求でモノを買っていたりするわけです。

この「やっぱり」というあいまいな理由で、モノを買ったり買わなかったりする人が、全国レベルで何百万人といるということです。

そう考えると、売り手は「顧客の無意識の本能的欲求」を無視はできないはずです。

人間の思考や行動は、5%の意識と95%の無意識とで成り立っていて、大部分の無意識が人間の思考や行動に大きな影響を及ぼしていると言われています。

米カリフォルニア大学バークレー校 A.K・プラディープ博士は、彼の著書の中で、脳の情報処理の最大95%は「潜在意識」が行っていると言っています。

潜在意識とは無意識の本能的欲求であり、本人も意識していない、無意識下の行動や本音のことを言います。

だからこそ「あなたの本音は何ですか?」と聞いたところで本能的欲求を見つけ出すことはできません。

本能的欲求とはあくまで洞察するものであり、本音を聞き出そうとしたところで、答えられるようなものではないのです。

かつて、マクドナルドが消費者調査をした結果、「ヘルシーなものが食べたい」という回答が多数ありました。

そこで、サラダを中心としたメニューを開発するものの、まったく売れずに大失敗してしまいました。

それはなぜでしょうか?

実は、消費者の本能的欲求が「脂っこいジューシーな肉が入ったバーガーに食らいつきたいという背徳感」にあったからです。

たまには後先考えず、いまを楽しみたい、そんな本能的欲求を満たすところがマクドナルドであったということです。

今は、良い商品を作ったからといって、売れる保証はどこにもありません。

それではなぜ、これからは本能的欲求の時代であるのかと言えば、「大体良いんじゃないですか時代」がやってきたからだと言われています。

物質的に豊かになった時代において、大体良いんじゃないと思えるモノが溢れる時代になったのです。

人間の欲求について

インサイトを考察する前に、人間の欲求について把握しておく必要があります。

「マズローの欲求5段階説」という人間の欲求を5段階に区分した理論については、ご存知の方も多いのではないでしょうか?

マズローの欲求5段階説

自己実現の欲求:創造的活動がしたい
承認の欲求:自分を認め、他者から認められたい
社会的欲求:他社と関わりたい、集団に属したい
安全の欲求:身の安全を守りたい
生理的欲求:生命を維持したい

マズローの欲求5段階説においては、下位の欲求ほど生命維持に関連しており、優先して満たされます

下位の欲求がある程度満たされると、次の欲求を求めるようになるということです。中心顧客のインサイトがどのレべルにあるかを意識しておく必要があります。

また、人間の欲求をさらに細分化した「人間の8つの本能的欲求」というものがあるので、インサイトの考察の際の参考にしてみてください。

人間の8つの本能的欲求

❶挑戦、達成:
挑戦したい|成長したい|達成感を味わいたい|何かを創りたい|うまくやりたい|効率よくしたい
❷優越:
ステータス特権が欲しい|人から好かれたい|一目を置かれたい|よく思われたい|人より優れたい|優れいてると思われたい|人に影響を与えたい|人をコントロールしたい
❸好奇心、刺激:
知りたい|学びたい|探求したい|刺激を受けたい|感度したい|興奮したい
❹承認:
人に認められたい|愛されたい|守ってもらいたい|人と出会いたい|友だちや仲間をつくりたい|仲良くなりたい|つながりを大切にしたい|みんなで盛り上がりたい|共感したい
❺奉仕:
誰かの役に立ちたい|応援したい|誰かを愛したい|愛情を注ぎたい|教えてあげた|情報共有したい|社会や環境に良いことをしたい|貢献したい
❻自主、思うがまま:
自由でいたい|縛られたくない|自分だけの時間を大事にしたい|邪魔されないようにしたい|自分らしく生きたい|自分らしさを発揮したい|後先考えずいまを楽しみたい|はまりたい|没頭したい|好きにお金を使いたい|必要なものだけでシンプルにしたい|快適に過ごしたい|セクシーな体験をしたい|遊びたい|笑いたい|美味しいものを食べたい飲みたい|モノを集めたい|きれいに保存したい|モノや財産を所有したい|モノや財産を増やしたい
❼適合、維持:
伝統や古きよきものを大事にしたい|悪目立ちしたくない|嫌われたくない|批判されたくない|周りに合わせたい|はみ出したくない
❽安全:
安心したい|平穏に過ごしたい|健康でいたい|健康になりたい|心の健康を大事にしたい|リラックスしたい|のんびりしたい|危険な目にあいたくない|失敗したくない|損したくない|ラクしたい|ラクになりたい

インサイト考察の手順

人間の本能的欲求(インサイト)の4つの構成要素は以下のとおりです。

どんなことでも、この型で整理ができるくらいまで何度も考え続けてみるとよいと思います。

インサイトの構成要素

❶場面:感情が生まれた場面
❷要因:感情を生み出すきっかけとなった直接的要因
❸背景:感情が生まれることになった背景的な理由
❹気持ち:感情や情緒の部分

❶の場面は、どんな状況・状態においてその情緒が生まれているのかを表現してください。

具体的な場所や時間、行為をする人数や関係性など、状況をスケッチをするようなイメージで表現してみましょう。

場面を客観的に描くことができれば、顧客のインサイトが生まれる行動や体験がありありと浮かび上がってきます。

❷の要因は、要因には顧客の行動や体験の「因数分解をしていくイメージ」で、何がその感情を産んでいるのか?何が作用しているのか?を客観的に分析し表現します。

ここで注意して欲しいのは、要因はより具体的である必要があるということです。

例えば、「白地にピンク色のドット柄のパッケージ」のように、誰もがある程度以上同じものを思い浮かべることができる状態まで表現されたものが要因となります。

❸の背景は、社会課題や生活環境など、「包括的な視点からの客観的事実」のことです。

その際に「どのような環境の中で、どのような生活をしているから、この感情が現れている」ということがストーリーとして明確に繋がっていると良いです。

❹気持ちは、良いと感じるポジティブな心理、嫌だと感じるネガティブな心理、あるいは充たされていないと感じる未充足の心理に分けられます。

ポジティブな心理は、なぜそれを選ぶのか、それを選ぶ理由はどこにあるのかを探る手掛かりとして使えます。

ネガティブな心理は、なぜそれを選ばなかったのか選ばなかった理由はどこにあるのかを探る手掛かりとなります。

未充足の心理は、何が充たられていなかったのか、充たされていないと感じた理由は何かを探る手掛かりになるのです。

自社ブランドの価値を定義する

中心顧客のインサイトを把握できたら、そのインサイトを衝く自社ブランドの価値を定義する必要があります。

なぜならば、中心顧客のインサイトを把握し、そこを自社ブランドの価値で衝くことができると「買わないではいられない」くらい激的に消費者の購買意欲を高めることができるからです。

例えば、ペットボトルの水を売ろうとする時、狭い意味でマーケティングを捉えている人は「どうやって売る?」「広告はどうする?」「ネットで売るか店舗で売るか?」などを考えます。

しかし、それはマーケティングのほんの一部であり、「戦術」の一部でしかありません。

実はマーケティングとは、もっと根源的な上流からアプローチしていくものです。

「そもそもその水が顧客に与える価値とは何なのか?」「他社でなく自社の水を買う理由は?」ここを明らかにしたうえで、下流にある「デザインは」「キャッチコピーは」「広告は」を考えていくのですが、この「価値」というものはなかなか自分たちでは気づかないのです。

USPについて

自社ブランドの価値を考えるうえで役に立つ”USP”という概念があります。

USP(Unique Selling Proposition)とは

商品やサービスが持っている独自の強みを意味するマーケティング用語であり、「顧客のニードやインサイトに対して、自社ブランドだけが満たすことのできる価値」のこと。

あらゆる商品やサービスの中から1つを選び出さなければいけない時、USPが明確であって、ニードやインサイトを満たす価値を顧客が理解できれば迷う必要はありません。

しかし、実際には、USPが明確でなかったり、価値が充分に伝えられていないことが多くあるのです。

だからこそ、自社ブランドの持つ価値(USP)を明確にしておく必要があります。

まずは以下の項目を参考にして、他者のUSP、自社のUSPを整理してみるとよいでしょう。

USP整理のポイント

❶価格
❷品質の高さ
❸利便性(スピードの速さ、在庫切れなし)
❹サービスの充実(アドバイスとサポート)
❺カスタマイズ性の高さ
❻保証の充実度(長期、広範囲)
❼ラインナップの広さ
❽利便性
❾専門性

続いて、他社との差別化をはかるための4つのコツを以下にご紹介します。

他社との差別化をはかる4つのコツ

1.ユニークで個性的であること:
USPは、その言葉のとおり、ほかの人が簡単に真似できないユニークな価値でなくてはいけません。商品やサービス自体の独自性や機能の高さにおいてユニークさを実現するのは簡単ではないと思われるかもしれません。しかし、市場のニーズは絶えず変化し、それに合った新しいサービスは常に求められています。例えば、QBハウスは既存の美容院・理容店に存在する充実したサービスを取り除くというアプローチでユニークさを実現しています。

2.複数の考え方を掛け合わせること:
1つの考えに固執せずに、複数の考えを掛け合わせることで、新たな価値が生まれることがあります。組み合わせは「同じ性質」「性質を補うもの」「真逆や異質」などのパターンで考えるとよいです。

3.明確なターゲットを設定し、対象分野での専門性を売りにすること:
狭い市場のなかで、専門性を活かすことがUSPになります。消費者や発注する側の心理としては、自分が抱えている問題の解決に特化している専門家を選びたいものだからです。

4.商品の機能の高さはUSPではない
技術開発に力を入れている場合は、自社商品の持つ優れた品質・機能がUSPであると考えてしまいがちです。しかし、たとえどんなに優れた品質でも、消費者にとって価値あることと認識されなければ、USPではありません。

リスクリバーサルについて

最期にリスクリバーサルについても整理しておきます。

リスクリバーサルとは?

あなたの提案に対して顧客が意思決定するときに必ず生じる、「経済的」「心理的」「感情的」なリスク要因を取り除くこと。

「競走上の強み」は、常に顧客が“イエス”と言うほうが簡単な状況に持ち込むことなのです。

それでは、顧客が断ることができないオファーはどのようなものがあるでしょうか?

一つ目は、「提案側が常に、すべてのリスク、あるいは顧客よりも大きいリスクを負うこと」です。

取引においては、一方はもう一方にすべてのリスク、または自分よりも大きいリスクを負うように必ず要求します。

顧客のリスクを取り除き、常にあなたがリスクを負うようにしましょう。

二つ目は、「リスクなし以上の保証をつけること」です。

これは、リスクを負うだけではなく、そこにかけた時間や労力を埋め合わせる何かを提案するということです。

とある出版社では、満足できなければ全額返金するだけでなく、競合の出版物の定期購読料を支払うという提案をして契約数を大きく伸ばしました。

手段を選択する

自社ブランドの価値が定義できたら、次に、その価値を中心顧客に届ける仕掛けや仕組みを選択する必要があります。

この仕掛けや仕組みのことを”マーケティングコミュニケーション”と言います。

マーケティングコミュニケーションとは、商品やサービスなどを知ってもらう・購買してもらうなどの目的で顧客とコミュニケーションしていく活動全般のことを指すのです。

マーケティングコミュニケーション選択する上では、以下の2つの基準を用いたマトリクスで考えてみてください。

プッシュ型戦術とプル型戦術の基準

プッシュ型戦術とプル型戦術の違いは、購入選択の主導権が売り手側にあるか、買い手側にあるかの違いにあります。

プッシュ型戦術とプル型戦術の違い

1.プッシュ型戦術:
「提供側主導」のマーケティング戦術です。「商品やサービスを販売するために売り手が行動を起こし、買い手がそれに対応する」という流れになります。売り手から積極的に押していくのが、プッシュ型戦術のイメージです。

2.プル型戦術:
「買い手主導」のマーケティング戦術です。「商品やサービスを手に入れるために買い手が行動を起こし、売り手がそれに対応する」という考え方です。買い手の行動が起点となっている点が、プッシュ型戦術とは異なります。売り手はその場から動かず、買い手を引っ張ってくるイメージを持つと、プル型戦術を理解しやすいでしょう。

提供価値の基準

プル型/プッシュ型の分類の軸に加えて、もう1つの軸として「提供価値」があります。

これは、顧客に提供する情報やサービスの価値が高いか低いかの違いです。